
古物商許可を取らずに「せどり」を行うと……
昨今、街中でリユース店や買取店を見かけることが多くなりました。
それらの店舗は、もちろん古物商許可を得て営業しているわけですが、実は個人でも、古物(いわゆる中古品や、新品未使用品であっても小売店等から一度でも一般消費者の手に渡った物品など)を、転売目的で購入してそれを販売する場合、事前に、所轄の警察署を通じて、都道府県の公安委員会から許可を得ておかなければ、違法行為となってしまいます。
注意したいのは、仮に「自分で使うつもりだった」と主張しても、実際には転売目的で購入している場合、古物商としての営業になり、公安委員会の許可が必要になる点です。

警察庁は、「法第2条第2項各号中『営業』とは、一般に営利の目的をもって同種類の行為を反復継続して行うことをいい、この判断は、行為の実情に即して客観的になされるべきである」と解釈しています(「古物営業法等の解釈運用基準について(通達)」令和8年5月14日付け警察庁丙生企発第51号、別添の解釈運用基準)。
仮に本業ではなく、副業や内職であっても同様です。
なお、フリーマーケットやバザーについても、品物の価格、開催の頻度、収益の使い道などを総合して判断されます。

ちなみに、「古物」については、以下のように解釈されています。
すなわち、
①一度使用された物品(≒中古品)
②新品でも使用のために取引された物品(≒小売店等から一度でも一般消費者の手に渡った物品)
③これらのものに幾分の手入れをした物品(≒①②の物品に、物品の本来の性質、用途に変化を及ぼさない形で、修理等を行った物品)
であると、解釈されています。
したがって、未使用新品であっても「古物」に該当します。
3年以下の拘禁刑
ところで、許可を得ずに古物営業を行うと、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります(古物営業法第31条)。

3年以下の拘禁刑って、けっこう重いと思いませんか?
暴行罪(刑法208条)や脅迫罪(同222条)では「2年以下」と規定されていますし、住居侵入罪(刑法130条)や名誉毀損罪(刑法230条)で「3年以下」の拘禁刑ですから、無許可のせどりで「3年以下」って・・・と思われる方もいるかもしれませんが、これには深い理由があります。
また、営業の許可申請といえば、普通は市役所や保健所などを連想する人も多いと思いますが、古物商は「なぜ警察に申請?」と思われるのではないでしょうか?
警察が所管する理由
実は、古物商は常に盗品を掴まされてしまうリスクを抱えており、警察の管理下に置かれていない、無許可の古物商は、盗品のロンダリングに利用されてしまう危険性があるのです。
古物商を、盗品ロンダリングの温床としないためにも、許可制度によって警察の管理下に置いているわけです。

古物商許可は、単なる営業許可ではありません。
許可を取得した後、古物を買い取るときに相手方の住所・氏名・職業・年齢を本人確認書類等で確認し(古物営業法第15条)、取引の内容を帳簿などに記録する(古物営業法第16条)といった義務が課せられています。
そして、これらの義務を怠ると、営業停止処分や許可の取消し処分だけでなく、なんと「6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(古物営業法第33条)」も規定されています。
なぜそこまで厳重に管理するのでしょうか?

それは、盗難事件を捜査するためのネットワークとして古物商を管理下に置き、古物商の帳簿記録を通じて、盗品が市場に流れた場合の経路を捜査・追跡できるようにしているのです。
無許可営業を放置すると、制度の核心である「盗品追跡網」に穴が開いてしまう。
だから単なる営業許可手続きを怠った程度の罪としてではなく、盗品などと密接に関連する性質を有するものとして、重めの法定刑が規定されていると考えれば、納得いくのではないでしょうか。
江戸時代の源流:鑑札と組合
ところで、古物商を当局の管理下に置く制度は、現代に始まったものではありません。
なんと、300年以上前の江戸時代から、やはり盗品対策として、古物商は当局の管理下に置かれています。
江戸では、盗品が持ち込まれやすい中古品関係の商売が、町奉行の監督下に置かれていました。

対象になったのは、次の8つの商売です。これらはまとめて「八品商(はっぴんしょう)」と呼ばれました。
- 質屋
- 古着屋
- 古着買
- 古道具屋
- 小道具屋
- 唐物屋(輸入品を扱う店)
- 古鉄屋
- 古鉄買
享保8年(1723年)4月、八品の商人に組合を作るよう命じる町触(江戸の町に出された条例のようなもの)が出されています。紛失物の吟味(調べ)を組合の責任で行わせることが、その狙いです。
さらに元文4年(1739年)6月には、古鉄買が鑑札を持たずに商売することなどを禁じる町触が出ました。
そして寛政3年(1791年)11月には、古鉄買に「笊差札(ざるさしふだ)」という札を交付する町触も出ています。

ここに、現在の許可制の原型が見いだされます。
- 業者を組合に組み込み、誰が営業しているかを把握する
- 鑑札(営業許可の札)を持たない者の営業を禁止する
「許可を受けた者だけが営業できる」という制度設計は、すでにこの時点で形になっています。
実は、この仕組みは、一度大きく揺らいでいます。

天保の改革で、八品商売人の名簿(名前帳)が消印処分となり、交付済みの札もできる限り回収されました。
つまり、業者を把握する網が、いったん消滅しかけます。
しかし嘉永5年(1852年)2月、江戸の町年寄が再興すべきだと答申します。
そして翌年、嘉永6年(1853年)3月には八品商売人を再興する町触が出され、八品商の組合と鑑札の仕組みが復活します。
この経緯は、古物商の許可制度が、人間社会にとって不可欠な制度であることを示す一例といえます。
明治維新後、帝国議会で古物商取締法が成立

明治時代に入ると、制度はさらに発展します。
まず、明治16年(1883年)に、古物商取締条例(太政官布告第50号)が布告されます。
そして明治28年(1895年)、ついに帝国議会で、古物商取締法(法律第13号)が成立します。
戦後、公安委員会の許可制度へ

その後、昭和24年(1949年)5月28日に現在の古物営業法が公布され、同年7月1日に施行されます。
この法律の附則で従前の古物商取締法は廃止され、その役目を終えます。
その後、平成7年(1995年)の改正で、許可の単位は、営業所ごとから都道府県(公安委員会)ごとに改められ、管理者の選任もすべての営業所に義務付けられます。
もっとも、他の都道府県に店を出すたびに、その都道府県の公安委員会の許可を取る必要がある点は、平成7年改正でも、まだ変わりません。

この点が見直されたのが平成30年(2018年)の改正で、令和2年(2020年)4月1日に施行されます。
きっかけは、複数の都道府県で営業する古物商が増え、営業所の全国展開が進んだことです(警察庁の国会提出資料)。
現在は、主たる営業所などを管轄する公安委員会の許可を受けていれば、他の都道府県に営業所を設けるときは「届出」で足ります(煩雑な「申請」手続きは不要です)。
古物営業法の真の目的とは?
改正を経てきた現在の古物営業法第1条を見てみましょう。
第一条 この法律は、盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。
ここまで読んだ方なら、この条文のマーカ部分が腑に落ちるのではないでしょうか?
目的は、消費者保護でも、事業者保護でもなく、「犯罪の防止及び犯罪被害の迅速な回復に資すること」なのです。

江戸時代に発祥した古物商に係る制度の目的が、令和の世においても古物営業法第1条に顕れていることが分かります。
時代や社会状況が変わっても、人間の営みというものは変わらないものですね。
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