自分の過失割合が大きい場合、救われることはないのか?

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交通事故に関わる制度の物語

【下記の物語は、交通事故後に関わる制度を題材としたフィクションです
内容は、交通事故に遭った際に関わり得る一般的な制度を物語形式で分かりやすく紹介するためのものであって、個別の法的アドバイスを行うものではなく、制度紹介の為の創作物語です。】

 帰宅途中、交差点での衝突事故だった。
 住宅街、信号の無い交差点。お互いに一時停止の標識はなかった。
 相手も、職場からの帰宅途中だったらしい。

 私に注意不足があったことは、自分でも充分に分かっている。
 しかし、相手も私と同じように安全確認を怠り、そのまま交差点に進入してきたのだ。

 病院での診断結果は「頚椎捻挫」。首の痛みで眠れない夜が続いた。
 仕事にも、当然悪影響が出た。

 事故直後、友人に事故の話をしたとき、こう言われた。
「俺が交通事故にあったときは、相手の保険会社が色々と全部やってくれたよ。病院でも自分で払わなくてよかったし、慰謝料も後からまとめて入った。ほんと助かったよ」

 任意保険会社による「一括対応サービス」というものらしい。
 相手方が任意保険に加入していて、かつ、自分の過失が大きくなければ場合、相手方が加入している任意保険会社が、治療費や慰謝料などを支払ってくれる。
 自分で複雑な手続きをする必要もない。本当に便利なサービスだったらしい。

 私は、この友人の話を聞いて、すっかり安心していた。

 だからこそ、その数日後、相手方が加入している任意保険会社から告げられた言葉は、予想外だった。

「今回の事故は、あなた様の過失割合が大きいため、当社は一括対応サービスを行いません」
耳を疑った。私の過失割合は六割、6対4だと告げられた。

 治療費はどうすればいいのか?
 病院も整骨院も控えなければならない。
 しかし、首の痛みと手のしびれは、日に日に増していき、毎日の仕事も限界だった。
 途方に暮れ、ただただ涙が出た。

 その後、ネットで色々と調べた。
 たとえ過失が大きくても、自賠責保険に「被害者請求」という制度があることを知った。

 自動車損害賠償保障法という法律の第16条に基づいて、被害者が加害者側の自賠責保険会社に直接請求できる仕組みらしい。
 過失割合が相手よりも大きい私には、被害者という言葉が引っ掛かったが、それでも使える制度らしいということが分かり、救われたと思った。

 ただし、任意保険会社の一括対応がない場合、治療費は、一時的に自己負担しなければならないらしい。
 もっとも、自賠法17条の「仮渡金制度」というものもあるらしく、救済が全くないわけではないらしいが。

 ただひとつ、問題があった。
 当時の私は満足に睡眠も取れない体で、毎日仕事に行くだけで、へとへとだったのだ。
 被害者請求という煩雑な手続きをするのに必要な気力も体力もなかったし、事故直後の不安定な心を落ち着かすだけで精一杯だった。

 そんな時、一括対応サービスを拒否されたことを憐れんだ友人から、行政書士を紹介された。
 自賠責保険の被害者請求の書類作成を任せられることを知った瞬間、心から安堵した。

 数か月後、治療費や慰謝料が自賠責保険会社から支払われた。
 一時的に私が立て替えて、病院や整骨院に通って適切な治療や施術を受けていたため、その頃には首の具合もずいぶん良くなり、夜もよく眠れるようになっていた。

「大きい過失があるから補償は受けられない」そう思い込んでいたが、現実は違った。
諦めなければ、道はある。
あの日そう実感できたことを、今も忘れない。

【補足】

※任意保険会社の一括対応サービスは、あくまでも民間保険会社による任意のサービスであり、それを必ず行わなければならない法的義務は無く、過失割合が一定以上(おおむね4割以上)の場合、任意保険会社が一括対応サービスを行わないことが多いですが、基準は保険会社ごとに異なります

※自賠責の被害者請求(自賠法16条に基づく請求)は、法律で保障された制度。過失割合が大きくても、7割未満であれば減額なし、7割以上の場合であっても、傷害に係るものは原則2割減額、後遺障害又は死亡に係るものでは2割〜5割の段階的減額にとどまる(自賠責保険支払基準による)

『行政書士による交通事故の実務』(日本行政書士会連合会 法務業務部 権利義務・事実証明部門 編著、令和3年5月11日発行)によれば、自賠責保険の被害者請求に係る書類の作成は、行政書士法第1条の2第1項(権利義務又は事実証明に関する書類作成)による行政書士の交通事故業務のひとつであるとされています(13頁参照)

※なお、行政書士は、あくまでも自賠責保険の被害者請求に係る「書類の作成」を業務とするものであり、保険会社と交渉すること等はできません(弁護士法第72条)

お知らせ

当事務所からのご案内

下記のような事例の場合、自賠責保険の被害者請求をした方が良いケースもございます。

相手方が任意保険に入っていなかった

自分の過失割合が大きいため、相手方任意保険会社に、一括対応を拒否された

まだ痛みが残っているが、相手方任意保険会社から治療費を打ち切られそう

加害者が任意保険会社による示談代行サービスを拒否した為、任意保険会社に一括対応をして貰えない

当事務所は、自賠責保険の被害者請求に係る書類作成業務を行っております。

なお、行政書士の業務範囲外のものについては、ご希望に応じて、当事務所の顧問弁護士など適切な専門家をご紹介できますので、まずはお気軽にご相談ください

免責事項

 本記事に掲載している情報は、一般的な法的情報の提供を目的とするものであり、特定の案件について助言を行うものではありません。
 記載内容は作成時点における法令等に基づいていますが、今後の改正その他の事情により変更される可能性があります。
 また、実際の事案では、事実関係や状況により結論が異なる場合がありますので、具体的な事案については、必ず適切な専門家にご相談ください。
 当事務所は、本記事の内容に依拠した結果生じた如何なる損害についても責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

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