補償制度を説明するための創作物語
【下記の物語は、交通事故後に関わる制度を題材としたフィクションです。
内容は、交通事故に遭った際に関わり得る一般的な制度を物語形式で分かりやすく紹介するためのものであって、実在の人物及び出来事とは一切関係の無い、制度紹介の為の創作物語です。】
横断歩道での悲劇
仕事終わりの帰宅途中、青信号で横断歩道を渡っていたときのことだった。

前から歩いて来る人が、私を見て大きな悲鳴をあげた――と同時に、強烈な衝撃とともに体が宙に浮き、アスファルトに叩きつけられ、意識を失った。

目を覚ましたのは、翌日。病院のベッドの上だった。
医師からは「頭部にも打撲の痕はあるが幸い脳に損傷は見られず、外傷性の意識障害から回復した」と説明された。

しかし、右大腿骨、鎖骨、肋骨など多数箇所の骨折に加え、全身打撲の診断。
治療とリハビリを含め、治癒までおよそ4か月を要するとのことだった。
意識が戻ってから、すぐにお見舞いに来てくれた友人が言った。
「俺が交通事故にあったときは、相手が加入していた保険会社が、治療費だ慰謝料だと色々と補償してくれたけど、おまえのケースだと、相手が誰だか分からないわけだし、どうしたらいいんだろうな・・・」

奇跡的に命拾いはしたが、体を動かせないため、しばらくは働けない。
当時、私はフリーランスの料理人をしていたので、体を動かせなくなり、しかも事故の補償もなければ・・・
昔、何かの映画かドラマでみたことがあるシーンだと思った。
それは、犯罪の被害者が、経済的に困窮していくストーリーだった・・・

翌週、担当の警察官と刑事が私の病室を訪れ、事故当時の状況について詳細な聞き取りが行われた。
また、事故現場付近の防犯カメラ映像や現場に落ちていた破片の鑑定をもとに、加害車両が発見・特定されたことを教えてくれた。

しかし、加害車両の所有者は、ひき逃げ事件の被疑者ではなかった。
加害車両の所有者もまた被害者だった。
加害車両は、所有者から盗難届が出されていた盗難車両だったのだ。
まだ犯人の特定には至っておらず、犯人に対して損害賠償請求を行うこともできない状況だったし、仮に犯人が捕まったとしても、損害賠償請求に応じるだけの経済力があるかどうかも疑わしいと思った・・・

そんな考えが脳裏をよぎったとき、警察官が「政府保障事業」という制度を紹介してくれた。
「こうしたケースでは、通常の交通事故のように自賠責保険へ請求することはできません。しかし、被害者救済のために国が設けた『政府保障事業』があります」

初めて耳にする制度の名だった。警察官は続けた。
「すぐに支払われるわけではありませんが、必要な書類を揃えて、所定の請求書を作成して申請するこで、審査を経て、自賠責保険とほぼ同等の補償を受けることが可能です。ただ、審査には半年以上かかる場合もあり、請求権は時効による消滅もあるので、なるべく早めに準備に取りかかる方が良いですよ」

多数箇所の骨折と全身打撲を負い、ベッドに横たわっていた身の私にとって、様々な書類を収集し、請求書を作成するという作業に取り組むことは事実上、不可能だった。
希望の光が見えたと思った矢先、その道の険しさに再び胸が締め付けられた。
このことを前述の友人に相談すると、懇意にしている行政書士を紹介してくれた。
政府保障事業への請求も取り扱っているという行政書士だった。
彼に書類作成などを任せられると聞き、本当に安堵した。

4か月後、治療費や慰謝料が政府保障事業から支払われた。
フリーランスの料理人だったので、体を動かせずに収入が完全に途絶えてしまうと、治療費、生活費、国民年金、国民健康保険、住民税などの出費が重くのしかかり、貯金が底をつきかけていた。
行政書士からは、「行政書士費用は、政府保障事業から慰謝料が入金された後で構わないですよ」と言われていたので、この点も助かった。当時の私にとって、支払いを少しでも後ろにできることは、本当に有難かった。
あれから3年。
退院後は、昼夜を問わず、がむしゃらに働いて、とうとう自分のレストランの開店資金を貯めることができた。
明日は、3年振りに、あの行政書士と会って、飲食店開業に必要な許認可申請などの打ち合わせをすることになっている。

当事務所は、「政府保障事業への請求」に係る書類作成業務を取り扱っております
自動車損害賠償保障法
第七十二条 政府は、自動車損害賠償保障事業として、次の業務を行う。
一 自動車の運行によつて生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が第三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときに、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害を塡補すること。
二 責任保険の被保険者及び責任共済の被共済者以外の者が、第三条の規定によつて損害賠償の責に任ずる場合(その責任が第十条に規定する自動車の運行によつて生ずる場合を除く。)に、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害を塡補すること。
三 第十六条第四項又は第十七条第四項(これらの規定を第二十三条の三第一項において準用する場合を含む。)の規定による請求により、これらの規定による補償を行うこと。
2 前項各号の請求の手続は、国土交通省令で定める。
自賠法第72条第1項第1号は、加害自動車の保有者が明らかでない場合の被害者補償について規定しており、同項第2号は、自賠責保険または共済に未加入の自動車による事故の場合の被害者補償について規定しています。
ひき逃げ事故や無保険車による人身事故においては、政府の保障事業制度を利用することで、一定の条件のもとで治療費や慰謝料などの補償を受けることが可能です。
手続きは複雑ですが、当事務所の行政書士が丁寧にサポートいたします。
